硬度(ショアA)を狙い通りに調整するための配合テクニック

ゴムの配合

「試作してみたけれど、目標の硬度より5ポイントも高くなってしまった……」

「柔らかくしたいけれど、どこまでオイルを入れていいかわからない」

ゴム配合の仕事を始めたばかりの方で、このような悩みを抱えている方は多いのではないでしょうか。私も最初は、狙った数値が出ずに何度も練り直しをした経験があります。

結論からお伝えすると、ゴムの硬度調整は「プラス要素(充填剤)」と「マイナス要素(軟化剤)」のバランスで決まります。ここの感覚さえ掴めれば、試作の回数は劇的に減らせます。

この記事では、ゴム配合の初心者に向け、硬度(ショアA)を自由自在に調整するための配合テクニックと、失敗しないための注意点を解説します。

そもそもゴムの硬度(ショアA)は何で決まる?

まず、基本となる「硬度」の仕組みを整理しましょう。

一般的にゴムの硬さを表す指標として「ショアA(デュロメータ硬さAタイプ)」が使われます。0〜100の数値で表され、数字が大きいほど硬くなります(例:輪ゴムは20〜30、自動車タイヤは60〜70程度)。

ゴムの硬度が決まる要因は、主に以下の2つです。

  1. 物理的な詰め込み(充填剤の量): ゴムの中に硬い粒子がどれだけ詰まっているか。
  2. 網目の細かさ(架橋密度): ゴム分子同士がどれだけ強く結びついているか。

イメージとしては、「満員電車」を想像してください。人がぎゅうぎゅうに詰まっている(充填剤が多い)ほど身動きが取れず「硬く」なりますし、人と人が手をつないでいる(架橋密度が高い)ほど、やはり動きにくく「硬く」なります。

硬度を「上げる」ための配合テクニック

目標よりゴムが柔らかすぎる場合、硬度を上げるために以下の方法を検討します。

カーボンブラック・充填剤の増量

最も一般的で効果が出やすいのが、補強材(フィラー)を増やすことです。

  • カーボンブラック: 補強性が高く、硬度を上げる効果が高い。
  • 無機充填剤(炭酸カルシウム、クレーなど): 増量材として使われるが、カーボンに比べると硬度上昇率は緩やか。

ポイント:

同じ量を入れる場合、「粒子径が小さい」ものほどゴムとの接触面積が増えるため、硬度は高くなります。

加硫促進剤・架橋密度の調整

硫黄などの加硫剤や、加硫促進剤を増やすことで「架橋密度」を高め、硬くすることができます。

ただし、配合量を増やしすぎると「スコーチ(焼け)」と呼ばれる加工時の早期加硫トラブルや、ゴムが弾性を失ってプラスチックのようにカチカチになってしまうリスクがあるため、微調整程度に留めるのが一般的です。

硬度を「下げる」ための配合テクニック

逆に、硬すぎるゴムを柔らかくしたい場合のアプローチです。

プロセスオイル・可塑剤の活用

最も手軽なのが、オイル(軟化剤・可塑剤)を入れることです。ゴム分子の間に入り込み、摩擦を減らす「潤滑油」のような働きをします。

  • パラフィン系オイル: EPDMやIIRによく使われる。
  • ナフテン系・アロマ系: SBRやNRによく使われる。
  • エステル系可塑剤: NBRやアクリルゴムなど極性があるゴムに使われる。

注意点:

ゴムの種類(ポリマー)とオイルの相性が悪いと、後述する「ブリードアウト(油の染み出し)」の原因になります。必ず適合するオイルを選びましょう。

ポリマー自体の選定(ムーニー粘度)

配合だけで調整が難しい場合、ベースとなるゴム(原料ゴム)自体を変更するのも手です。

原料ゴムには「ムーニー粘度」という指標があります。よりムーニー粘度が低い(=柔らかい)グレードのポリマーを選定することで、ベースの硬度を下げることができます。

【実践編】狙い通りに調整するためのステップ

では、実際に配合設計を行う際の手順を見ていきましょう。ここで重要になるのがPHRという単位です。

まずは「ベース配合」を決める & PHRの解説

ゴム業界の共通言語である「PHR」を理解しましょう。

PHR (Parts Per Hundred Rubber)

原料ゴムを「100」としたとき、他の材料が「何部」入っているかを表す重量比率。

例:ゴム100gに対し、カーボンを50g入れるなら「50phr」

%(パーセント)で考えると、材料を追加するたびに分母が変わって計算が複雑になりますが、PHRなら「ゴム100」が固定なので調整が非常に楽になります。

硬度調整の目安(PHRの感覚)

使用する材料によりますが、一般的な合成ゴム配合における、ざっくりとした変化量の目安(係数)を持っておくと便利です。

調整したい方向操作硬度変化の目安(概算)
硬くするカーボンブラックを入れる+1 phr で約 +0.5 ポイント
無機充填剤を入れる+1 phr で約 +0.1〜0.3 ポイント
柔らかくするオイルを入れる+1 phr で約 -0.5 ポイント

※あくまで目安です。高充填域(すでにたくさん粉が入っている状態)では、少量の追加でも硬度が跳ね上がることがあります。

微調整を行う際の黄金ルール

狙った硬度にするための鉄則は、「一度に複数のパラメータを動かさない」ことです。

「カーボンを増やして、同時にオイルも減らす」という調整を一気に行うと、結果が良かった(または悪かった)ときに、どちらが作用したのか原因分析ができなくなります。まずは一つずつ動かしてデータを蓄積しましょう。

初心者が陥りやすい「硬度調整」の落とし穴

硬度だけに気を取られていると、製品として使い物にならないゴムが出来上がってしまうことがあります。以下のリスクには十分注意してください。

他の物性への影響(トレードオフ)

硬度を変えると、必ず他の物性も連動して変わります。

  • 硬くすると:引張強さは上がるが、「伸び」が悪くなる。
  • 柔らかくすると:「伸び」は良くなるが、強度が下がり、圧縮永久歪み(ヘタリ)が悪化しやすい。

ブリードアウト(噴き出し)のリスク

「柔らかくしたいから」といって、限界を超えてオイルを大量に入れると、ゴムが油を保持しきれなくなります。

時間が経つと表面に油が浮き出てベタベタになる「ブリードアウト」が発生します。これを防ぐには、吸油量の高いカーボンを併用するなどの対策が必要です。

未加硫ゴムの粘度変化(加工性)

硬度調整は、製品の硬さだけでなく、「練りやすさ(加工性)」にも直結します。

充填剤を入れすぎて硬くなりすぎた未加硫ゴムは、工場での混練りや成形時にモーターに負荷をかけたり、金型の中で流れにくくなったりするトラブルを引き起こします。

まとめ

ゴムの硬度調整は、料理の味付けに似ています。基本のレシピ(ベース配合)に対し、塩(充填剤)を足せば硬くなり、水(オイル)を足せば柔らかくなります。

本記事のポイント:

  • 硬度調整の基本「充填剤」「オイル」のバランス。
  • PHR計算を使いこなし、カーボン1phrで+0.5、オイル1phrで-0.5程度の目安を持つ。
  • 硬度だけでなく、加工性やブリードアウトのリスクも考慮する。

まずは、お使いのゴムで「カーボンを5phr増やしたら硬度がいくつ上がったか」という自分だけのデータを記録することから始めてみてください。その蓄積が、狙い通りのゴムを作る一番の近道になります。

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