「成形機に入れたゴムが、金型の隅まで流れずにショート(充填不足)した……」 「まだ加硫していないはずの生地(未加硫ゴム)が、ゴツゴツして硬い……」
これはゴム業界で「スコーチ」、または通称「焼け」と呼ばれる現象です。 ブルームは製品になってからのトラブルですが、スコーチは「製品になる前」に材料がダメになってしまうため、材料ロス(廃棄金額)に直結する深刻な問題です。
今回は、この厄介なスコーチが発生する原因と、今日からできる具体的な防止策を解説します。
そもそも「スコーチ(焼け)」とは?
スコーチとは、「加硫工程(プレス成形など)に入る前の段階で、意図せず加硫反応が始まってしまうこと(早期加硫)」です。
ゴムは熱と圧力をかけることで分子同士が繋がり(架橋)、弾性体へと変化します。 通常は金型の中でこの反応を起こしたいのですが、以下のような工程での「熱」によって、フライングして反応が始まってしまうことがあります。
- 混練り中: バンバリーやロールの摩擦熱
- 分出し・押出し中: スクリューやヘッドの熱
- 保管中: 倉庫の温度(特に夏場)
一度スコーチしたゴムは、もう溶けません。可塑性(柔らかさ)を失っているため、金型に入れても流動せず、ボソボソの状態になります。一度焼けたゴムは「産業廃棄物」にするしかないのが辛いところです。
なぜ焼ける?スコーチの主な3つの原因
1. 加硫促進剤が「速すぎる」
生産性を上げようとして加硫時間を短くするために、反応の速い(活性の高い)加硫促進剤を使いすぎているケースです。 特に、チウラム系(TT, TRAなど)やジチオカルバミン酸塩系(BZ, PZなど)は反応が非常に速いため、少しの熱でも反応が始まりやすく、スコーチのリスクが高まります。
2. 混練り時の「温度が高すぎる」
ゴムを練る際は摩擦熱が発生します。 加硫剤(硫黄など)を入れるタイミングでゴムの温度が高すぎたり(例えば100℃以上)、長時間練りすぎたりすると、その熱エネルギーで反応がスタートしてしまいます。
3. 未加硫ゴムの「保管環境が悪い」
意外と多いのがこれです。 ゴムは常温でも微細ながら化学反応が進んでいます。夏場の倉庫や、直射日光が当たる場所に置いておくと、じわじわと架橋が進み、いざ使おうとした時に「初期粘度(ムーニー粘度)」が高くなっていて使えない、ということが起きます。
現場ですぐできる!スコーチの具体的な5つの対策
スコーチ対策は「配合」と「工程」の両面からアプローチします。
対策1:遅延剤(PVI / CTP)を添加する【配合】
最も手っ取り早く、確実な方法です。 スコーチ防止剤(リターダー)と呼ばれる薬品を少量添加します。
- PVI(CTP): 最も一般的な遅延剤です。0.1〜0.3phr程度入れるだけで、加硫速度(tc90)をあまり落とさずに、スコーチタイム(ts2)だけを延ばすことができます。
- 注意点: 入れすぎると今度は「加硫不足」や「ブルーム」の原因になるため、0.5phr以下で調整するのが基本です。
対策2:遅延作用のある加硫促進剤に変える【配合】
現在、反応の速い促進剤を使っている場合、「遅延作用(ディレイドアクション)」を持つタイプへの切り替えを検討します。
- スルフェンアミド系(CBS/CZ, BBS/NS): これらは「一定の温度になるまでは反応せず、ある温度を超えると一気に反応する」という理想的な特性を持っています。 現在、チアゾール系(DM)を使っていて焼けやすいなら、一部をCBS(CZ)に置き換えるだけで安全性は向上します。
対策3:混練り温度と手順の徹底管理【工程】
混練り担当者の腕の見せ所です。
- 加硫剤投入温度の厳守: バンバリーから排出したゴムが熱い場合、すぐに硫黄を入れず、ロールや冷却コンベアで一度冷やしてから投入します(一般的には80℃〜90℃以下推奨)。
- 冷却水の確認: ロールやバンバリーの冷却水が循環しているか、温度が上がっていないかを確認します。
対策4:2段階混練り(A練り・B練り)の採用【工程】
もし、すべての材料を一度に練り込む「1段練り」をしていてスコーチするなら、工程を2回に分けます。
- A練り(マスターバッチ): ゴム、補強剤、オイル、老化防止剤など「反応しないもの」だけを高温でしっかり練る。
- B練り(ファイナル): A練りの生地を冷ましてから、加硫剤・促進剤を低温・短時間で混ぜ込む。
手間は増えますが、スコーチリスクは激減し、分散も良くなります。
対策5:先入れ先出しの徹底【保管】
練り上がった生地(B練り生地)は、生鮮食品と同じです。 「練ってから3日以内に使い切る」などのルールを決め、古い生地から順に使う「先入れ先出し」を徹底します。停滞期間が長ければ長いほど、スコーチのリスクは高まります。
ムーニースコーチ試験で数値を把握しよう
感覚ではなく数値で管理するために、「ムーニー粘度計」での測定をおすすめします。
- t5(またはt3): スコーチタイム。粘度が最低値から5ポイント上昇するまでの時間。
- この時間が短すぎる → 成形機の中で流れる前に固まってしまう(未充填、ショートの原因)。
- この時間が長すぎる → 加硫時間が長くなり、生産性が落ちる。
一般的に、使用する成形機の温度やサイクルに合わせて「t5が〇分以上ある配合にする」という基準を設けて管理します。
まとめ
スコーチ(焼け)は、材料をゴミにしてしまう非常にコストのかかる不良です。
- スコーチとは: 成形前にゴムが熱で反応して固まってしまうこと。
- 原因: 促進剤が速すぎる、練り温度が高すぎる、保管が悪い。
- 特効薬: 遅延剤(PVI)の添加が最も効果的。
- 根本対策: スルフェンアミド系への変更や、2段階混練りへの変更。
「夏場になると不良が増える」という場合は、間違いなくスコーチ(初期加硫)の影響を受けています。 まずは、現在の配合に「PVIを0.1phrだけ追加してみる」ところからテストしてみてはいかがでしょうか?それだけで、成形不良がピタリと止まることも珍しくありません。

