「EPDMでうまくいった配合を、そのままNBRで試したら表面がベタベタになった……」
「CRの硬度が、なぜか保管中に上がってしまう」
ゴム配合において、最も重要かつ失敗しやすいのが「ポリマー(原料ゴム)と配合剤の相性」です。いくら計算上で硬度を合わせても、ゴムの種類ごとの「癖」や「相溶性(混ざりやすさ)」を理解していないと、製品として成立しないものが出来上がってしまいます。
この記事では、代表的な合成ゴム(EPDM、NBR、CR、SBR/NR)ごとに、配合設計のポイント、相性の良いオイル、注意すべきトラブルを徹底解説します。
なぜ「ゴムの種類」で配合を変える必要があるのか?
ゴムにはそれぞれSP値(溶解度パラメータ)という固有の値があります。簡単に言うと「水と油」の関係のようなもので、SP値が近いもの同士はよく混ざり、遠いもの同士は反発して分離します。
- SP値が近い配合剤を選ぶ → ゴムの中に綺麗に収まる(良品)
- SP値が遠い配合剤を選ぶ → ゴムが保持できず、表面に噴き出す(ブリードアウト)
この「相性」を無視して配合を組むことはできません。以下、主要なゴムごとに詳しく見ていきましょう。
1. EPDM(エチレンプロピレンジエンゴム)
〜高充填の王様!コストダウンと耐候性の両立〜
自動車のウェザーストリップや電線被覆に使われる、耐候性・耐オゾン性に優れたゴムです。
推奨オイル:パラフィン系プロセスオイル
EPDMは非極性ゴムであるため、同じく非極性のパラフィン系オイル(PW系など)と非常に相性が良いです。
- 注意点: 極性の高い「エステル系可塑剤」や「アロマ系オイル」を入れると、全く馴染まずにブリードします。
配合・硬度調整のコツ
- 驚異的な「受容性」:EPDMは、ゴム100に対し、カーボン100+オイル100といった「倍以上の増量」をしてもゴム弾性を保てる稀有なポリマーです。コストを下げたい場合、充填剤を多めに入れる設計が基本になります。
- 加硫速度が遅め:二重結合が少ないため、他のゴムより加硫が遅い傾向があります。加硫促進剤を多めに組み合わせるか、高反応性のグレードを選ぶ必要があります。
2. NBR(ニトリルゴム)
〜耐油ゴムの代名詞!「可塑剤」選びが命〜
パッキン、オイルシール、燃料ホースなどに使われる耐油性ゴムです。
推奨オイル:エステル系可塑剤
NBRは極性が高いため、通常のプロセスオイル(炭化水素系)ではなく、極性を持つ合成可塑剤を使用します。
- 代表例: DOP(フタル酸系・汎用)、DOA(アジピン酸系・耐寒性重視)
- 絶対NG: EPDM用のパラフィンオイルは、入れて練った直後から分離が始まります。
配合・硬度調整のコツ
- 「結合ニトリル量(AN量)」を確認する:原料のNBRには「低ニトリル」〜「極高ニトリル」などのグレードがあります。AN量が多いほど耐油性と硬度は上がりますが、耐寒性が悪くなります。配合剤だけでなく、ベースポリマーの選定が重要です。
- 熱による硬化リスク:可塑剤はプロセスオイルよりも揮発性が高いものが多いです。高温で使われる製品の場合、使用中に可塑剤が抜けてゴムがカチカチに硬化・収縮するトラブルが起きがちです。その場合は「高分子量可塑剤」を選定します。
3. CR(クロロプレンゴム)
〜バランスの優等生と「結晶化」の罠〜
耐候性、耐油性、難燃性のバランスが良く、工業用品からウェットスーツまで幅広く使われます。
推奨オイル:ナフテン系オイル / エステル系可塑剤
極性があるため、ナフテン系プロセスオイルが第一選択です。低温特性を良くしたい場合はエステル系可塑剤も併用します。
- 注意点: パラフィン系は相性が悪く、多量に入れるとブリードします。
配合・硬度調整のコツ
- 受酸剤が必須:CRの加硫には、必ず「酸化亜鉛(亜鉛華)」と「酸化マグネシウム」を使います。これらは粉体なので、実質的にフィラー(充填剤)として硬度を上げる要素になります。計算に入れるのを忘れないようにしましょう。
- 保管中の硬度変化(結晶化):CRは常温で放置すると、分子が規則正しく並ぼうとする「結晶化」が進み、カチカチになることがあります(特に冬場)。これは加硫が進んだわけではなく、温めたり練ったりすれば元に戻りますが、品質管理上注意が必要です。
4. SBR / NR(スチレンゴム / 天然ゴム)
〜汎用ゴムの基本!加硫系と補強性の勝負〜
タイヤ、防振ゴム、履物などに使われる最も一般的なゴムです。
推奨オイル:アロマ系 / ナフテン系 / TDAE
昔はアロマオイルが主流でしたが、発がん性物質規制(PAHs規制)により、現在はTDAE(処理留出油)やナフテン系への置き換えが進んでいます。
- 注意点: パラフィン系を入れると、相容性が悪く物性(強度)が低下しやすいです。
配合・硬度調整のコツ
- SBRは「補強」必須:天然ゴム(NR)は単体でも強いですが、SBRはカーボンなどの補強剤を入れないと全く強度がでません(グズグズになります)。硬度調整以前に、最低限のカーボン配合が必要です。
- 加硫戻り(リバージョン):天然ゴム配合の場合、加硫時間をかけすぎると逆にゴムが軟化してベトベトになる「リバージョン」現象が起きます。加硫条件の設定はシビアに行う必要があります。
【保存版】ゴム種類別・配合適合マトリクス
迷ったときにパッと確認できる、ゴムとオイルの適合表です。
| ゴムの種類 | 推奨オイル(軟化剤) | NGまたは要注意なオイル | よく使われる充填剤 | 配合設計のキーワード |
| EPDM | パラフィン系 (PW-380など) | エステル系可塑剤 (極性が合わずブリード) | カーボン多量 炭酸カルシウム | 高充填・低コスト 吸油量が極めて高い |
| NBR | エステル系可塑剤 (DOP, DOAなど) | パラフィン系 (絶対にNG。分離する) | カーボン ホワイトカーボン | 耐油 vs 耐寒 可塑剤の揮発に注意 |
| CR | ナフテン系 エステル系可塑剤 | パラフィン系 | カーボン クレー | 受酸剤(ZnO/MgO) 結晶化による硬化 |
| SBR / NR | アロマ系 / TDAE ナフテン系 | パラフィン系 (物性が落ちやすい) | 全般 (カーボン、シリカ) | 汎用・高強度 SBRは補強剤が必須 |
まとめ
ゴム配合において「万能なレシピ」は存在しません。ターゲットとするゴム(ポリマー)が変われば、選ぶべきオイルも充填剤の量もガラリと変わります。
本記事のポイント:
- EPDMは「パラフィン系オイル」でガッツリ増量が可能。
- NBRは「エステル系可塑剤」を使用し、パラフィンは厳禁。
- CRは「受酸剤」も硬度計算に入れ、「結晶化」を考慮する。
- SBRは「補強剤(カーボン)」がないと強度が出ない。
まずは、使用するポリマーのSDSや技術資料を確認し、「推奨される可塑剤の種類(SP値の傾向)」をチェックすることから始めてみてください。正しい組み合わせを選ぶだけで、配合トラブルの8割は防ぐことができます。

