「新製品のパッキン、どのゴムを使えばいいんだろう?」
「天然ゴムと合成ゴム、結局なにが違うの?」
ゴムの配合や材料選定を始めたばかりの頃、最初にぶつかる壁が「材料の種類の多さ」ではないでしょうか。
実は、ゴム材料選びは「天然ゴム(NR)」を知り、足りない機能を「合成ゴム」で補うという考え方が基本です。この基準さえ持っていれば、複雑に見えるゴム選びもぐっとシンプルになります。
この記事では、ゴム配合初心者の方向けに、天然ゴムと合成ゴムの特性の違いや、具体的なメリット・デメリット、そして失敗しない使い分けのポイントを解説します。
私の経験をもとに、専門用語も噛み砕いてお伝えしますので、ぜひ最後までご覧ください。
【結論】天然ゴムは「強さ」、合成ゴムは「機能」で選ぶ
まず、一番大切な結論からお伝えします。
ゴム材料を選ぶ際の大きな判断基準は以下の通りです。
- 天然ゴム(NR):物理的な強さ、加工のしやすさを求めるとき
- 合成ゴム:耐油性、耐候性、耐熱性など、特定の「機能」を求めるとき
イメージとしては、天然ゴムは「基礎体力が高い万能アスリート」、合成ゴムは「特定の環境に特化したスペシャリスト」と考えると分かりやすいでしょう。
すべてのゴムの基準(ベンチマーク)は天然ゴムです。「天然ゴムではこの環境に耐えられない」と判断したときに、はじめて合成ゴムの検討に入ります。
天然ゴム(NR)の特性|最強の機械的強度と加工性
ゴムの歴史そのものである天然ゴム(NR)。現在でもタイヤや防振ゴムに大量に使われているのには、明確な理由があります。
メリット:なぜ天然ゴムは重宝されるのか
天然ゴムの最大の武器は、「自補強性(じほきょうせい)」と呼ばれる性質です。
- 圧倒的な機械的強度
- 天然ゴムは、伸ばされると分子が規則正しく並び(結晶化)、自ら硬くなって破断を防ごうとします。そのため、引張強度や引き裂き強度は全ゴム中でもトップクラスです。
- 優れた弾力性と反発弾性
- 「ゴムらしい」バネのような弾力に優れています。
- 加工がしやすい
- 配合剤と混ざりやすく、成形時の失敗が比較的少ないのも初心者には嬉しいポイントです。
デメリット:知っておくべき弱点
一方で、天然素材ならではの弱点もあります。
- 油に弱い:鉱物油などに触れると、大きく膨潤(膨らむこと)してボロボロになります。
- 天候に弱い:紫外線やオゾンに弱く、屋外に放置するとすぐに亀裂(クラック)が入ります。
- 熱に弱い:耐熱性は低く、高温環境下ではドロドロに軟化劣化しやすいです。
合成ゴムの特性|特定の弱点を克服したスペシャリスト
合成ゴムは、天然ゴムが苦手とする「油・熱・天候」などの弱点を克服するために、化学的に作られたゴムです。
ここでは、初心者がまず覚えるべき代表的な3つの合成ゴムを紹介します。
1. SBR(スチレン・ブタジエンゴム)
- 特性:天然ゴムに最も近い性質を持つ合成ゴム。
- 使い分け:天然ゴムより耐摩耗性や耐老化性が少し良いため、タイヤのトレッド(地面に接する部分)によく使われます。品質が安定しており安価です。
2. NBR(ニトリルゴム)
- 特性:「耐油性の王様」です。
- 使い分け:天然ゴムが全く歯が立たない「油」のある環境で使います。オイルシール、パッキン、燃料ホースなどは、ほぼこのNBRが選ばれます。
3. EPDM(エチレン・プロピレンゴム)
- 特性:「耐候性のエキスパート」です。
- 使い分け:紫外線、オゾン、雨風にさらされる屋外製品に最適です。窓枠のゴム(ウェザーストリップ)や電線被覆などに使われます。ただし、油には弱いです。
【比較表】天然ゴム vs 合成ゴム 特性一覧
それぞれの特性を一覧表にまとめました。配合設計をする際のクイックリファレンスとして活用してください。
| 特性 | 天然ゴム (NR) | 合成ゴム (SBR) | 合成ゴム (NBR) | 合成ゴム (EPDM) |
| 機械的強度 | ◎ (最強) | 〇 | 〇 | 〇 |
| 反発弾性 | ◎ (良) | 〇 | △ | 〇 |
| 耐油性 | × (不可) | × | ◎ (優) | × |
| 耐候性 (屋外) | × (不可) | △ | △ | ◎ (優) |
| 耐熱性 | △ (~80℃) | △ (~100℃) | 〇 (~120℃) | 〇 (~150℃) |
| 価格 | 安価 (変動あり) | 安価 (安定) | 中 | 中 |
※評価は一般的な配合の場合です。配合調整により性能は変化します。
配合設計における「使い分け」のフローチャート
実際にどのゴムを使うか迷ったときは、以下のフローで考えてみてください。
STEP 1:使用環境の確認(ネガティブチェック)
まず、「天然ゴムではダメな理由」があるかを探します。
- 油に触れますか?
- Yes → NBR などを検討(NRは除外)
- 屋外で直射日光を浴びますか?
- Yes → EPDM などを検討(NRは除外、または強力な老化防止剤が必要)
- 100℃以上の高温になりますか?
- Yes → シリコーンゴムやフッ素ゴムなどの特殊ゴムを検討
STEP 2:コストと強度のバランス
特殊な環境でない(屋内、常温、水程度)なら、コストと強度で選びます。
- とにかく強度や弾力が必要 → 天然ゴム (NR)
- 品質を安定させたい、コストを抑えたい → SBR または NRとSBRのブレンド
【Pro Tips】ブレンド(ポリマーブレンド)という選択肢
実は、現場では「天然ゴム60% + SBR40%」のように、2種類のゴムを混ぜて使うことがよくあります。
これにより、「天然ゴムの加工のしやすさ」と「合成ゴムの品質安定性」の両取りを狙うことができます。
注意点とリスク|採用前に確認すべきこと
最後に、実務で失敗しないための注意点をお伝えします。
1. 価格変動のリスク
天然ゴムは農産物(ゴムの木の樹液)であるため、天候や生産国の情勢により価格が乱高下することがあります。一方、合成ゴムは原油価格に連動します。
コスト見積もりを出す際は、「現在の市況」を確認し、有効期限を設けるなどの対策が必要です。
2. 不純物と品質のバラつき
天然ゴムには、自然由来のタンパク質やゴミなどの「不純物」が含まれることがあります。これが原因で、精密部品では品質トラブルになるリスクがあります。
非常に高い純度が求められる医療用や精密機器用では、合成ゴム(イソプレンゴム:IR)が選ばれることもあります。
まとめ
今回は、天然ゴムと合成ゴムの特性と使い分けについて解説しました。
重要なポイントを整理します。
- 基本は天然ゴム(NR):強度と加工性は最強クラス。
- 環境に合わせて合成ゴム:油ならNBR、屋外ならEPDM。
- 弱点を知る:天然ゴムは「油・熱・天気」に弱い。
ゴム配合の世界は奥が深いですが、まずはこの「特性による大まかな分類」を理解することが、プロへの第一歩です。
まずは、作りたい製品が「どんな環境で使われるか」を書き出すことから始めてみてください。

