ゴム製品の製造現場や開発部門に配属されると、まず直面するのが「ゴムの配合」という奥深い
世界です。単なる生ゴム(原料ゴム)の状態では、タイヤもパッキンもその役割を果たすことは
できません。
本記事では、新人技術者がまず押さえておくべき「加硫」のメカニズムと、製造現場の羅針盤
となる「加硫曲線」の読み方について解説します。
1. 加硫とは何か?:生ゴムを「弾力体」に変える魔法
原料としての「生ゴム」は、長い鎖状の分子が絡まり合っているだけの状態で、温度が上がれば
ドロドロに溶け、冷えればカチカチに固まります。このままでは工業製品としては使いものに
なりません。
そこで行われるのが「加硫」です。
ゴム分子の鎖の間に、橋を架けるように結合(架橋)を作るプロセスを指し、この「橋」がある
おかげで、引っ張られても元の形に戻る弾性が生まれます。
| 状態 | 特徴 | イメージ |
| 生ゴム | 塑性が強く、変形すると戻らない。温度依存性が高い。 | バラバラに置かれた“糸の束” |
| 加硫ゴム | 弾性が強く、変形しても戻る。耐熱性が向上する。 | 網目状に結ばれた漁網 |
2. 加硫剤と加硫促進剤の役割
加硫において最も代表的な薬剤は「硫黄」ですが、現代の配合において硫黄だけで加硫を行うと
時間がかかります。そのため単体で用いることはまれです。
加硫剤
ゴム分子同士を繋ぐ「橋渡し」の役割を果たします。硫黄や過酸化物が代表的で、生ゴムの分子鎖
を三次元網目状に連結し、弾性・強度を与えます。
加硫促進剤
硫黄だけで加硫を進めようとすると、膨大な時間(数時間〜数日)と高い温度が必要になります。これを数分単位まで短縮し、かつ効率的に架橋を形成させるのが「加硫促進剤」です。
- 反応を速める: 生産サイクルを向上させる。
- 物性を安定させる: 網目構造を均一にする。
またスコーチタイム(ゴムが加熱下で粘度が急上昇し始めるまでの安全作業時間)を調整し、
生産性を向上させます。
3. 加硫曲線(キュラストメーター)の読み方のコツ
ゴムの配合が決まったら、それがどのように固まっていくかを「キュラストメーター」で
測定します。得られた加硫曲線は、ゴム材料を一定温度で加熱しながら加硫反応の進行を
トルク(ゴムの硬さ変化)でグラフ化したもので、加工の成否を決める重要なデータが
詰まっています。
曲線の基本形状
横軸は時間(分)、縦軸はトルク(ゴムの硬さ変化)です。典型的な形状は以下の通りです。
- 初期下降(ML付近): 加熱でゴムが軟化しトルクが最低値(ML: Minimum Torque)に
低下。 - 上昇期: 加硫開始で架橋が進みトルクが急上昇。
- 高原期(MH付近): 架橋完成でトルクが最大値(MH: Maximum Torque)に飽和。

主要パラメータ
| パラメータ | 意味 | 用途 |
|---|---|---|
| t10 (ts2) | ML+10%到達時間 | スコーチタイムの指標(加工安全時間)。長いほどスコーチしにくい。 |
| t90 | ML+90%到達時間 | 最適加硫時間の目安(90%架橋完了)。この時間を基準に成形時間を設定。 |
| ML | 最低トルク | 未加硫ゴムの流動性(加工性)。 |
| MH | 最高トルク | 加硫ゴムの硬さ・強度。 |
4. 現場で起こる「過加硫」と「欠加硫」のトラブル
理論通りにいかないのが現場の難しさです。加熱不足や加熱しすぎによって、製品には
以下のような致命的な欠陥が生じます。
欠加硫(アンダーキュア)
加熱不足の状態。ゴムの中央まで熱が通っていない場合に多いです。プレスの温度がヒーターの
断線などにより目標値まで上がっていなかったり、製品の脱型で時間が経ちすぎてしまって
冷えてしまった時に起こります。
- 症状: 表面がベタつく、強度が低くてすぐにちぎれる、永久伸びが大きい。
- 原因: 設定温度の低さ、プレス時間の不足、または金型の予熱不足。
過加硫(オーバーキュア)
加熱しすぎの状態。特に天然ゴム(NR)などで顕著に見られます。
- 症状: 「戻り(リバージョン)」と呼ばれる現象でゴムが逆に柔らかくなったり、逆に硬くなりすぎてひび割れ(クラック)が発生したりする。
- 原因: 設定温度の高すぎ、プレスの放置。
まとめ
ゴムの配合は、化学反応と物理特性のバランスの上に成り立っています。
まずは、自分の扱っている配合がキュラストメーターでどのような加硫曲線を示すのか、その波形
を頭に叩き込むことから始めてください。データと現場の製品状態を紐付ける力がつけば、
トラブルシューティングのスピードは格段に上がるはずです。
